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デジタルネイチャー「計算機的多様性」の世界へ

コンピュータと、人・自然物が混ざり合った世界「デジタルネイチャー」到来に向けた挑戦

「空気中に触れる立体像を表示」させる研究
「空気中に触れる立体像を表示」させる研究

こんにちは、落合陽一です。僕自身は、アーティストだったり、研究者や起業家だったり、一児の父親でもありますが、メディアでは「現代の魔法使い」と呼ばれることもあります。僕が生涯をかけてやりたいことは、21世紀の人とコンピュータに関わる思想を工学として社会実装しながら作っていくことです。「思想」というと難しそうに聞こえますが、21世紀の時代を支えるような考え方とその技術、および人材の育成を目指しています。

僕たちは、ユビキタスコンピューティングの先に、「デジタルネイチャー(コンピュータと非コンピュータ(人間を含む)が混ざり合った新しい自然)」の到来を見据えています。物質世界とヴァーチャル世界(データ)の間に、今までの社会よりも「多様な未来の形」が起こりうると考えられます。

僕たちのデジタルネイチャー研究室は、そういった物質とヴァーチャルの間で、コンピュータ(計算機)が起こす様々な選択肢を想定し、工学的アプローチで発明することで、産業・学問・芸術に至る様々な問題解決に挑戦し、新たな文化的価値の創成を目指しています。

「計算機的多様性」の世界へ

デジタルネイチャーの到来で、21世紀は「多様な未来の形」が起こりうる。これを「計算機的多様性」と僕は言っています。

我々が、「人間社会の中で当たり前だ」と思っているものは、大量生産を可能にさせる20世紀の工業化の過程で誕生した考え方です。その思想には、標準化(平均化)によって振るい落とされた価値が存在します。

例えば、健常者が何かを決めることで障害者が生まれる。男と女が結婚するものだというからLGBTQと呼ばれるマイノリティが生まれる。全員がダイバーシティがあり、それを包摂できる社会だったら「普通」と「そうじゃない」を分ける必要性がありません。

工業的な近代化のためには、全員がそれぞれ異なる方向を向いているという状況は、コストパフォーマンスが悪かったんです。オペレーションにとって効率的な人間を育てようとする社会システムができあがってしまいました。しかしこれからは、多様性がぶつかり合う部分はある程度コンピュータが解決してくれるので、標準化された人間社会からアップデートされて、多様性を維持できる時代(計算機的多様性)がやってきます。我々は、今後、高齢社会や、自動化社会を経る上で、必然的にダイバーシティ化するんです。

ダイバーシティプロジェクト

今、僕たちが研究で向かい合っているものは、コンピューターを使って、人間の力を直接エンパワーできる時代に、標準化によって切り捨ててきたものを、再回収し、最適化できるか、伸ばせるのかということです。

研究の中に、目、耳などの感覚補完、車椅子、義手、移動ロボットなどの開発をする「ダイバーシティプロジェクト」があります。

軽量化が進み,安価に購入できるようになれば,広く普及する日も遠くない
軽量化が進み、安価に購入できるようになれば、
広く普及する日も遠くない

その中の一つ、「Air Mount Retinal Projector」では、視覚障害を持つ人を対象に、網膜に超微弱レーザーで直接映像を打ち込んで見えるようにするという技術を研究しています。視覚障害は、眼球のレンズ調整に不調が生じている場合がほとんどで、視覚情報を受け取る網膜自体は機能している可能性が高い。フレームにカメラが仕込まれたヘッドマウントディプレイを装着して、カメラを通じて直接網膜へ映像が照射されるので、近眼や遠視、老眼も関係なく、視力が戻るという仕組みです。

また、好きな映像を投影できるので、日常生活と連動して、目を向けた先の風景に必要な情報が空中に浮かんで見える、それが実現する日も近いと思います。

「Holographic Whisper」プロジェクトでは、空間のある一点、1cm×1cm程度の狭い範囲に音信号を出すことができる「超超指向性スピーカ」の開発も行いました。何もない空中に音が聞こえる「点」を自在に動かし、同じ空間に複数人いたとしても、狙った人物にのみ耳元でささやくように音を聞かせることができます。

一つのアイデアとしては、新型の「補聴器」の開発技術に用いることが可能だと考えています。例えば、リビングに大きなスピーカを置き、スピーカから出る音が、おばあちゃんにだけ大きく聞こえるようにする、ということが可能になるんです。あとは、美術館などで展示ごとに異なる解説を来場者に聞かせたり、もっと身近なところだと、フードコートなど騒がしい場所での呼び出し音にも使えます。

また、既存の車椅子を改良した、電動車椅子の実験「Telewheelchair」も行っています。電動車椅子に対する最大の不安は「高齢の方がうっかり動かしたら危ない」ということでした。そこで、コントローラーをリモコンにして、介護職員しか操作できないようにしました。介護者が、ヘッドマウントディスプレイを装着することで、車椅子に取り付けられた全方位カメラを通して、車椅子の周囲を見ながら、ラジコン感覚で車椅子を操作することができます。また、より安全性に配慮し、リアルタイム物体検出システムを用いて、人が車椅子に近づくと、車椅子を停止しする機能もあります。

今後、複数の車椅子が遠隔操作システムに接続され、1人の介護者がこれらの車椅子の切り替えを行ってサポートできたり、「カルガモ走行」式に施設内を移動させたりもできます。介護士さんが車椅子の移動に費やしていた時間を、よりコミュニケーションの時間として将棋や囲碁の相手をしてあげたり、一緒にテレビを見ながら話し相手になってあげたり、付加価値の高い介護ができる時間にできると思います。

介護者が映像を見ながら遠隔で操作
介護者が映像を見ながら遠隔で操作
人を感知すると警告を表示して自動停止する
人を感知すると警告を表示して自動停止する

障害が障害ではなくなる世界観へ向けて

コンピュータを使うことに抵抗を示す人もいて、特に介護業界はむしろ「自動化されていかないことでお金を得ている」と考える人も生まれてしまっているように思います。しかしながら、政治的で窮屈に感じるような業界の慣習や、互いへの配慮より、僕たちはテクノロジーで解決可能な問題を解くことによって、技術的に社会を前進させることを優先させる方が重要だと思います。

例えば、同じハードウェアでも、コンピュータのプログラムによって、各人に異なる機能を付与できれば、車椅子という枠を超えて、魅力的なパーソナルモビリティーにできるかもしれません。「当たり前のように移動する」ということを、コンピュータがサポートするようになれば、いつかそれは、障害ではなく普通のことに見えてくる。

例えば、今の日本は高齢化に対してネガティブなイメージばかり抱いていますが、それも「ダイバーシティ」ととらえる。目が弱くなる、耳が弱くなる、手が動かくなる、全部がダイバーシティです。お年寄りや障害を抱えた人々の行動半径が増えて、より快適な暮らしが可能な未来の実現が楽しみでなりません。

Telewheelchair で移動する男性
Telewheelchair で移動する男性

機械知能と人間知能を組み合わせて、ハイブリッドに操作できるハードウェアを開発することも考えたい。人間がやった方がいいこと、機械にやらせた方がいいこと、それぞれに適不適があり、互いに補いあった方が迅速かつ効率的に問題解決を行えるからです。人にとって自然に感じられる人機融合が行われれば、ダイバーシティが加速していくと思います。

SF映画を観れば、敵の一人くらい、体のどこかの部分が機械になっているのなんてよくある話で、それを我々は、「この人は障害があるんだ…」なんて思わないですよね。「うわ!怖い!」「強そう!かっこいい!」とか思う。「おしゃれで便利だから,機械の腕を一本装着しよう」などと言って、世の中には腕が一本の人もいれば、三本の人もいるみたいな、眼鏡をかける感覚で、機械が取り込まれていく。21世紀はそういう世界観に向かっています。

ダイバーシティを上げるため「大量生産」から「個別生産」へ

我々は明治から現在に至るまで、繰り返し同じものを大量に、安く生産してきた。僕たちが、解かないといけない問題は、中高長大なハードウェアを作るのではなく、いかにコンピュータが個々人の抱える障害に対応して課題ごとの解決を可能にしていくかです。そして、どのようにしたらダイバーシティを上げるために、「個別生産」に移行できるかが、僕たちの勝負です。

今は、形状自体はCGで自由に設計できる時代なのに、一旦大量生産されたものをつなぎ合わせたものしか生産できない。例えば、ロボットを作るとしたら、電気屋でパーツを買ってきて組み上げるしかない。

僕たちは、ハードウェア開発に力を入れるのではなく、必要な素材加工から最終製品に至るまでの工程で、CGで自由に表現されたデータと、物質的に存在するものの隙間を埋めていける「ソフトウェア開発」に力を入れています。僕は、どうやったらガンダムにザクが連携して勝つことができるか、みたいな考え方が好きなんですよ。

 

未来が読める人間を育てる

「ダイバーシティ生産」にはとてもクリエイティブな発想もいるし、これができる人を育てないといけない。僕の研究室では、「ある方向にのみ曲がるバネを作る」というプロジェクトがあります。脚や耳が曲がるキャラクターなど、CGで描いた形状や動作通りに、3Dプリント出力した物体を動かせるのか研究しました。

プロジェクト:Coded Skeleton
プロジェクト:Coded Skeleton

バネのように曲がる柔らかい素材を作ることはできますが、それだと曲がる方向の自由度が高すぎて制御が難しい。指や足の関節のなめらかな運動、内側の骨や筋肉などを想像して、ある一定の方向にしか曲がらないような素材を、どのようにしたらコンピュータシミュレーションで解析し、実際に出力したものが計算通りに動かせる「Coded Skeleton」というものを開発しました。あらゆる見た目・形に対応できる適切な骨格部品を、コンピュータでの計算から出力までを一貫して行えることで、多様に生産できることができます。

パーソナルコンピュータの父とされるアラン・ケイは、「未来を予測する最も確実な方法は、それをつくることだ」と残しています。その真意を僕は「未来のとある商材の価値を予想するには、それを発明しなければならない」だと考えています。

本来、未来をつくる若者達にしっかり投資して、研究させられる場が必要ですが、そういったお金の取り方はなかなかできないのは今も変わりません。今回も、学部生の研究教育のための資金調達のために、クラウドファンディングを利用します。

予算使途

機械学習やCGの造形のために、機械学習のための環境構築や3Dプリンターによる造形設備など、IoT/AIなどの浸透による「デジタルネイチャー」時代に、不可欠な「物理実装能力」と「数学的モデリング能力」を教育する設備環境を整えたいです。これにより、産学連携による共同研究に参加可能な意欲と経験ある学生(大学院生や卒業研究年次の学生)のみならず、入学したての「低学年の学生」においても、研究教育を行うことができます。

学部生に対する研究環境の整備は、他の公的予算や研究開発予算は目的が決まっているため、彼らにとって自由に使える環境を整備することは、大学にとって難しい課題です。僕らは、社会問題の解決のために、積極的に企業との共同研究や公的プロジェクトに参加していますが、学部生の自由な創造性のために使用できる機材は限られているのが現状です。

未だディープラーニングを研究するためのGPUサーバは高額ですし、3Dプリンターの研究をするための高精細なプリンターも一般的なプリンターより高額です。これらを整備し、自由な研究教育を行うための予算を確保することが目的です。

税制上の優遇措置について

今回のプロジェクトでは、fundFlyer を通じたビットコイン決済でのご支援は、筑波大学への寄付となります。ご寄付に対しましては、確定申告を行うことにより税制上の優遇措置が受けられます。詳細は「税制上の優遇措置(Readyfor のプロジェクトページ)」をご確認ください。